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特別審査員座談会

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特別審査員座談会

ストアフロントは時代のフロントを映す

ストアフロントコンクールで特別審査員を務める3名の専門家の皆様に、
応募作品を通して見えてくる現在や未来を語っていただきました。

特別審査委員長 八木 幸二 氏
京都女子大学教授 図書館長、東京工業大学名誉教授工学博士/1944年 愛知県一宮市生まれ。東京工業大学建築学科を卒業後、アメリカ、オクラホマ大学客員助教授、マサーチューセッツ工科大学客員研究員を経て、1995年に東京工業大学教授に。
特別審査委員 牛建 務 氏
一般社団法人日本商環境デザイン協会、株式会社インタースペースタイム代表/18年間アメリカChaix&Johnson InteriorDesign、SCMS Designに勤務。2005年、英国国立ノッティンガム・トレント大学学位授与校、学校法人環境造形学園にて客員教授を務める。
特別審査委員 橋本 夕紀夫 氏
一般社団法人日本商環境デザイン協会、有限会社 橋本夕紀夫デザインスタジオ/1962年 愛知県生まれ、愛知県立芸術大学デザイン学科を卒業後、株式会社スーパーポテトを経て、独立。現在は東京工芸大学教授、愛知県立芸術大学非常勤講師も務める。

最近のストアフロントを見て

シンプルな中に、日本的なデザイン意識が表れている(牛建 務 氏)

八木
第44回のコンク-ルで印象に残ったものひとつに、高架下のショップ(第1部銀賞)があります、これからの高架下がかっての暗いイメージではなくて、明るい商業スペースになっていく可能性が見えていいなと思いました。それから、受賞には至りませんでしたが、京都の金閣寺の近くにあるマクドナルド、桑名市の和菓子店など、地域性や伝統を重視したストアフロントに、すごくいい作品が出てきています。
橋本
確かに、周りの環境に配慮してデザインして表現していくという傾向は、強くなっています。ローソン熱海サンビーチ店(第1部 銅賞)にも、あてはまります。「屋上をつくって、みんなが憩えるスペースを設ける」など、リゾート地である熱海というロケーションにあわせて、どこにでもあるローソンではないものになっています。かつてのように、場所の特殊性や個性を考えず単に建物を作っていくという雰囲気ではなくなってきました。地域の個性をとらえて新しいライフスタイルを提示する、たとえば保育園+レストランといった意外な組み合わせの施設が増えています。
また、最近の傾向として、従来にないコンプレックス(複合)の仕方をした商業施設が登場してきています。アトリウムを介して、いろいろな飲食店、ブティック、ショールームなどが同居する中に、病院がポンと入っているといった施設です。アルミフロントが使われる商業施設は今、新しいサービスやホスピタリティが生まれる場所となっています。
牛建
ストアフロントのデザイン面については、私が審査員を担当してから、だんだん小ぶりになってきている印象があります。「遊び心に溢れたもの」というよりは、ものすごく現実味を帯びた、無駄のないデザインが主流になっています。無駄のないデザインというのは、シンプルで、要点だけを押えていくデザインです。とはいっても、コンクールに応募される作品がデザイン的に弱いのかというと、そうではありません。
先ほど話に出た高架下の作品も、「高速道路の上の空間をいかに活用していくか」といった、これからの都市デザインの課題に対するひとつの糸口になっていく気がしています。
そして、すべてが非常にシンプルになっていますが、私はその中に日本的なデザイン意識が表れているように感じています。
橋本
海外での仕事が多い牛建さんが、今のストアフロントに日本的なものを見ているというのは興味深いですね。
20世紀の日本は、欧米の文化を指針として、誰もが同じ方向につき進んできたわけです。ところが、外の文化を吸収するだけでなく、いつのまにか自分たち独自の表現にしてしまう、そうした日本人の特性がストアフロントの分野でも発揮されているのでしょうか。
八木
第44回のグランプリを受賞した、アミューズメント施設(マルハン千葉北店)も、まさに日本的なものが取り入れられた作品です。フロント材が、日本の伝統ともいえる縁側的空間を作り出しています。今まで、フロント材というのは、色や形で店舗の表面をかっこよくつくるという役割が主だったと思います。しかし、ここでは違っていて、内と外の関係をうまくつけて、内でも外でもない中間ゾーン、つまり縁側的な空間をつくるという新しい役割を、フロント材が果たしています。
  • 高架下のショップ(学大市場・小路)
  • マルハン千葉北店
  • ローソン熱海サンビーチ店

過去のコンクールを振り返って

「フロント材を使って一つの造形物が作り得る」と感じた(橋本 夕紀夫 氏)

八木
私自身が大学を卒業して、建築の仕事を始めたのが、ストアフロントコンクールの第1回が開催された頃でした。当時、大阪万博の仕事を経験しましたが、初期の受賞作品をみると、大阪万博の頃の日本の勢いが現れているように感じます。
その他、大型ガラスを使ったフロントが、早い時期からつくられていたことが意外でした。フロートガラス製法によって、大きなガラスを製造できるようになったのが、1950年のイギリスでのことでした。そして日本で第一人者が、青山通りで大きなガラスを使った建築をつくり話題になったのが、1970年代でした。それに続く1980年代にはすぐに、大きなガラスを使ったストアフロントがつくられているのを見て感心しました。
牛建
歴史を振り返る役割は、八木先生にお任せするとして、私は自分が生きている今の時代の中で印象に残る作品についてお話しします。
ひとつが、41回の1部で銀賞を受賞した作品(「うさぎや栃木城内店ツタヤ棟」)です。なぜこの作品がいいかというと、本当にシンプルな、どこにもあるような形だけども、左右対称でいて、両サイドで色を押えていて、なにかこうタイムレスな印象を与えるからです。いつ見ても飽きがこないデザインになっています。
うさぎや栃木城内店ツタヤ棟
もうひとつが、第38回グランプリの作品(「ファッションクルーズ」)です。これの良さは、両サイドにメンブレン(薄くてひらひらしたもの)を効果的に使っている点です。「アルミやガラスといった硬い素材の中に、布、生地のような柔らかいものを使う」という発想が面白いと感じました。
ファッションクルーズ
橋本
高橋眼科クリニック優れた作品は、いくつかありますが、私にとっては初めて審査員を務めた第37回のグランプリ「高橋眼科クリニック」が最も記憶に残っています。なぜこの作品かというと、「フロント材を使って一つの造形物が作り得る」ことを感じさせてくれたからです。それまでは、アルミのフロント材に対して「建物にパーツとして組み込まれている」という付属的なイメージを抱いていました。しかし高橋眼科クリニックの場合、まさにフロントが主役の作品でした。このくらい力強い表現をされると、コンクールのグランプリの名にふさわしいものになります。
八木
魚町銀天街ジョイントアーケード私から、追加して取り上げておきたい作品があります。「魚町銀天街ジョイントアーケード」(第41回 第3部金賞)です。商店街のアーケード上ではなく、より公共性の高い交差点の上のアーケードにソーラーパネルを設置したプロジェクトで、これからの省エネ社会で大きな意味を持つものです。公共空間への規制が緩和され、同様の事例がどんどん出てきて欲しいと思います。

アルミフロントの将来へ

コラボレーションとハイブリッドで新しい世界を(八木 幸二 氏)

牛建
今後も、ストアフロントコンクールには、大いに期待しています。といっても、1~2年の短い間で、具体的な成果を望むというわけではありません。何かが簡単に生まれるとは、思わないからです。そうではなく、コンクールを継続していくことによって、その先に何かが見えてくるのではないかと感じます。昭和フロントには、これまでの50年で引き継いできたものを、コンクールを通じてこれからの若い人たちに伝達していくという義務があると考えています。
橋本
ストアフロントコンクールの持つ意味は、昭和フロントとユーザーの響きあう場だということです。フロントをつくるユーザー側は、既製の材料を使って、何らかの工夫をしながら、「こんなこともできる」ということを昭和フロントに示す。一方、材料を提供する昭和フロント側は、ユーザー側の試みを見て、次の開発のヒントにすることができます。コンクールをきっかけに、創造が繰り返されていくのです。
そうした中で、昭和フロントには、いろいろな人たちのアイデアをもっともっと汲み取って、我々が見たこともない商品をつくっていって欲しいと思います。
八木
昭和フロントの将来に期待するものは、コラボレーション(協働)、ハイブリッド(混成)。つまり、異分野に目をむけることです。具体的には、アルミのフロント材にステンレスのワイヤーのようなものを加えることで、構造的に別の性質を持つようになり、建材としての新たな可能性が見えてくるといったことです。
また、省エネや少子高齢化といった社会課題への対応においても、異分野へのアプローチは重要です。たとえば、地球環境にやさしい移動手段として自転車の利用が増加しています。そうした動向をとらえて、アルミを使って自転車のための提案を目指すとします。
そこでは、これまでとは異なるパートナーとの連携が必要になるでしょう。ハイブリッド(混成)、コラボレーション(協働)を実践し、昭和フロントにはアルミフロントの新しい世界を積極的に追求していっていだきたいと思います。

これまでに審査をお願いした皆様

審査委員長(第1回~22回)
東京大学名誉教授/工学博士
星野 昌一
主な業績/千葉県庁舎、松阪市庁舎、オリンピック記念青少年センター体育館、東京工芸大学等。公共建築を多く手掛け、機能と美観を融合させた新たな建築の方向を示した。1948年にデザインした「銀杏バッジ」が東大マークとなったことでも知られる。
審査委員長(第23回~35回)
東京工業大学名誉教授/東京藝術大学名誉教授/工学博士
株式会社デザインシステム代表取締役
清家 清 氏 (2005年4月8日ご逝去)
主な業績/私の家、駒込の家、飛騨古川まつり会館、小原流家元会館、軽井沢プリンスホテル、横浜八景島シーパラダイスなど。日本建築学会会長をつとめ、1983年に紫綬褒章、1989年に勲二等瑞宝章を受けた日本を代表する現代建築家。
第17回~25回 特別審査委員
社団法人日本商環境設計家協会専務理事
奥脇 文彦
第17回~30回 特別審査委員
社団法人日本商環境設計家協会理事長
黒川 恭一
第18回~30回 特別審査委員
社団法人日本商環境設計家協会副理事長
江藤 一人
第24回~30回 特別審査委員
社団法人日本商環境設計家協会理事長
武石 馨
第31回~35回 特別審査委員
社団法人日本商環境設計家協会理事長
株式会社スーパーポテト、
株式会社スーパープランニング代表取締役
杉本 貴志
第31回~38回 特別審査委員
社団法人日本商環境設計家協会
株式会社日建スペースデザイン代表取締役
浦 一也
第36回 特別審査委員
社団法人日本商環境設計家協会
株式会社インフィクス
間宮 吉彦
※ 御所属、御肩書きは審査員を依頼した当時のものです。